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「受かる子」の家庭は、親の方針が揺るがない夫婦が一枚岩なら子どもは伸びる
射程圏内でもブランドに流されない親
いったん中学受験の世界に足を踏み込むと、最難関校のブランドの魅力にはあらがいがたいものがあります。
けれども、ブランドの魅力に流されず、わが子の将来像をしっかりと見定めて志望校を選別しているご家族がありました。
G君のご両親は直前の模擬テストで「もしかしたら最難関校に入れるかもしれない」という状況でも心変わりしませんでした。
もともと大変教育熱心な家庭で、テレビもほとんど見せず、ゲームはいっさい禁止という方針でした。
まわりから「そんなに厳しくしなくても」「テレビも見せないなんて」などといった声が聞こえてきても、揺るがず、譲らない強さがありました。
それだけしっかりとした考えのあるお母さんですから、やはりリーダー格で、ほかのお母さん方を束ね、尊敬もされている立派な方でした。
G君が目指していたのは、最難関校よりひとつランクが低いBランクの私立中学。
一家でいろいろな学校を見学してまわり、みんなで実際に見て歩いたうえで「ここだ!」と決めた学校です。
そのような家庭で育っただけあって、G君は集中力も積極性もあり、塾での成績も順調に伸びていきました。
志望校への合格はもう確実だろうと見えていたところ、秋口の模擬では最難関校でさえ60%の確率で合格の見込みありと出ました。
それだけの実力を付けていたのです。
そして、いよいよ一月、第一志望校の入試があり、みごと合格しました。
実は、私はこの合格を受け、「2月にある最難関校の入試も受けてみてはいかがですか?」と、お母さんに勧めていました。
いいにくいのですが、塾長として実績がほしいという気持ちにあらがえなかったのです。
最難関校合格者の数は、そのまま生徒数の増加につながります。
「ウチの方針は、これまで何度もお話ししましたよね。あれだけ話し合ったのに、高濱先生がそういうことをおっしゃるんですか?」
お母さんに、ぴしゃりといわれてしまいました。
本当にお恥ずかしい限りで、小さくなって頭を下げるしかありませんでした。
さらに、こんなこともいわれました。
「ほかの学校に行かないのは、よくご存知のはずでしょう。行く気のない学校を受けさせるのは失礼じゃないですか」
その最難関校に行く気はないし、合格しても行かない、それなのに受けさせるのは失礼だというのですから、いかにブランドに踊らされていないかがわかります。
不動の方針とはこういうものだと、あらためて勉強させられたケースです。
結果的に、ご両親の選択は大正解でした。
G君はそのBランクの私立中学で、集団のリーダーとして生き生きと活躍し、健やかに成長していったのです。
会うたびにたくましくなり、顔つきがしっかりとしてきて、頼もしく思いました。
本当のところ、G君は小学校のときは友人関係の問題を抱えていたのですが、それもみごとに克服し、大きく羽ばたいたのです。
ご両親がまさにG君にふさわしい学校を選び、最難関校が射程圏内に入ってもぐらつかなかったことが、彼の将来を輝かせたといってもいいでしょう。
この事例のように、本人にとっても、ご両親にとっても、レベルの高い学校に入るだけが幸せとはいえません。
わが子への期待が高いほど、また高い理想を掲げている人ほど、上へ上へと目がいきがちですが、子ども本人から視点がずれていないかを、常に心しておくべきでしょう。
「少しでもレベルの高い学校に入れば、それだけ未来が開ける」
「滑り込みセーフでも何でもいい、最難関校に合格できればこっちのもの。あとは入ってから頑張ればいい」
そんなふうに考える親御さんもいますが、本人を限界ぎりぎりまで頑張らせてなんとか上のレベルの学校に合格しても、それで万事めでたしめでたしとはいきません。
難しいのは、入学してからです。
ブランド中学といえば、たとえば開成中学は大変に響きのいいブランドです。
多くの人があこがれ、何が何でもわが子を入れたいと考えています。
でも、それだけに厳しい現実があります。
開成に行くほどの力を持っている子は、地方在住で公立中学、高校に進んだとしても、全員が東大に合格してもおかしくないというくらい優秀です。
それだけ難問につぐ難問を解いて、半端ではない難関を突破した子だけが入っているのです。
そのような集団のなかで、自らを下位位置付けてしまった子は、なかなか健全な自尊心が育ちません。
「やったぞ!合格した!」と胸を張って入学したのはいいけれど、まわりがあまりに優秀すぎて大きなギャップを感じると、たちまち心が砕かれてしまいます。
たとえ自分が開成の生徒だとしても、子どもにとっては「まわりの中で何番なのか」がすべてだと感じ取ってしまうケースがあるからです。
そして、毎日毎日、上位グループとの違いを見せつけられることで、「自分とは出来が違う」「自分はダメな人間だ」と自分を否定的に捉えるようになりがちです。
世の誰もがうらやむ学校に入っているのに、「自分は落ちこぼれだ」という意識が強く植え付けられ、自己肯定感を得られなくなってしまうのです。
日本全体で見れば圧倒的な上位グループに入っているのに、本人の心の中で「自分は下位に属している」というイメージがかたまります。
そうなると、まわりがいくら否定してもコンプレックスから逃れられなくなるケースが多いのです。
そして、たとえ有名大学に合格しても、東大合格でなかったら、またそこでコンプレックスを抱き続けることにもなります。
幸せな自己肯定感のなかで人生を送ることができなくなってしまうのです。
だから、私は「群れのトップを狙え」と、折に触れお話ししています。
多感な時期に群れのリーダーとして活躍することで、自尊心を持って堂々と積極的に社会に漕ぎ出していけるようになるからです。